富士山麓で新たなグラベルサイクリングイベントが誕生
「富士山と自転車」と聞いて多くの方が思い浮かべるのは、ロードバイクでのヒルクライムやマウンテンバイクでのダウンヒル、あるいは富士五湖を巡るライドかもしれません。
しかし、近年日本でも盛り上がりを見せている「グラベルイベント」が、ついに日本の象徴である富士山の麓で初めて開催されると聞き、その機会を逃すまいと参加してきました。

現地取材班の声

日本におけるグラベルサイクリングの現状と課題
グラベルサイクリングは発祥の地である米国に続いて、日本でも着実に定着しつつあります。
国内最大規模のグラベルイベントは2020年から北海道ニセコ町で開催されている「ニセコグラベル」で、毎年2回ほど500名前後のサイクリストが集まり、ニセコ町周辺の未舗装路を繋ぐ60kmから125kmのコースを駆け抜けます。
近年では宮城県の「グラベルクラシックやくらい」や長野県の「白馬グラベルミーティング」など、100名規模を超えるイベントが全国各地で立ち上がっており、グラベルシーンは着実に広がりを見せています。
しかし、日本のグラベルサイクリングには独自の課題も存在します。広大な土地が広がるアメリカやヨーロッパとは異なり、日本のサイクリストにとっては活動の場の確保が大きな課題となっています。日本の未舗装路は主に農道や林道ですが、多くの場合、地域との調整が必要で、気軽に楽しめる環境が整っていないのが現状です。
そんな中、富士山の南麓という絶好のロケーションで開催される「富士グラベル」は、日本のグラベルシーンに新たな可能性を示す重要なイベントと言えるでしょう。引用:富士グラベル
「富士グラベル」立ち上げの背景
日本のシンボルである富士山の南麓は林業が盛んで、多くの林道が存在しています。
アクセス条件や管理状況は様々ですが、関東圏からも関西圏からも日帰りでアクセスでき、グラベル走行に最適なフィールドが整っている恵まれた環境です。
「富士グラベル supported by Panaracer」は、林道の管理者である富士市の後援のもと、富士山南麓で25kmのショートコースと45kmのミドルコースを設定し、2025年5月18日(日)に開催される予定です。会場となる「富士山こどもの国」では、イベントの他にも出店や地域団体、事業者との連携により、家族で楽しめるコンテンツも用意される計画です。
また、5月は新茶の季節であり、コース上のエイドステーションでは地域の美味しいお茶や食材が参加者に振る舞われる予定です。「富士グラベル」は本格的なグラベルイベントでありながら、初心者でも参加しやすい間口の広さを持つことが大きな特徴となっています。
引用:富士グラベル
会場へのアクセスと当日の様子

開催地である「富士山こどもの国」の駐車場エリアは、東京から車で2時間以内というアクセスしやすい場所に位置しており、イベント当日の早朝移動でも十分に間に合いました。
イベント前日は大雨に見舞われ、開催が心配されましたが、当日は無事に開催されました。
当日は霧がかかり時折小雨が降る天気でしたが、気温は20℃前後と、グラベルライドには比較的快適なコンディションでした。
運用方法とコース詳細

【運用方法】
- ショートコース:フリーライド形式
- ミドルコース:参加者10名に対しガイド1名が付くガイド付きツアー形式
【コース詳細】
- ショートコース:約25km / 獲得標高 約500m / 定員50名
- ミドルコース:約45km / 獲得標高 約950m / 定員100名
天候とウェア・タイヤ選択

絶景ポイントとコースの印象

スタート時は曇り空の合間から一瞬だけ富士山を望むことができましたが、コースに入り森の中を進むにつれて再び霧が深くなりました。運営が「絶景ポイント」として看板を設置してくれていましたが、そこでも濃い霧に阻まれ、残念ながら富士山を拝むことはできませんでした。

富士山の絶景を見られなかったのは少し心残りでしたが、美しい木々に囲まれ、霧雨が静かに降る中を走る景色は幻想的で、これはこれで素晴らしい体験でした。自然に優しく包まれながら、適度な硬さで走りやすい路面の林道グラベルは、まさに極上のライドフィールを提供してくれました。
コース特性と魅力

ショートコースには、バイクを降りて押したり担いだりする必要があるような極端な激坂や、崖を登るような場所はありませんでした。適度なアップダウンがあり、その後に気持ちの良い長い直線が用意されているセクションでは、スピードを上げて駆け抜ける爽快感が味わえました。
特に印象に残っているのは、少し下り気味の長い直線から緩やかなカーブを経て再び直線になる箇所です。ここが本来、富士山がドーンと見えるはずの絶景ポイントだったのですが、私は霧で見ることは叶いませんでした。
しかし、山の天気は本当に変わりやすく、同じ日に同じ場所でも、バッチリ富士山を見ることができた参加者もたくさんいたようです。同じイベントでも見える景色が違うというのは、「富士グラベル」ならではの特徴であり、これもまた山の魅力なのかもしれません。
こればかりは「運」ですね。
スタッフによる手厚いサポート

コース中最も難易度が高い「ドロップオフ(V字型の急勾配)」では、トレイルランやダートライド経験豊富なボランティアスタッフが攻略アドバイスを提供してくれました。希望者にはバイクの搬送サポートもあり、初心者から中級者まで安心して参加できる配慮がなされていました。
ナビゲーションと安全確保

コースの分岐点には常にスタッフが配置され、コース案内や応援をしてくれるため、迷うことなく安心して走行できます。また、最後尾にはパナレーサーのサポートカーが帯同し、メカトラブル発生時のバックアップ体制も整っていました。このような手厚いサポートは、特に初めてグラベルイベントに参加する方にとって大きな安心感につながります。
エイドステーションで味わう地元グルメ


エイドステーションでは静岡県を代表する「お茶」や、富士市のご当地グルメ「つけナポリタン」が振る舞われました。補給食は最低限で済み、地元の味を楽しむことができました。
つけナポリタンを味わっているときに、それまでコース上では姿を見せてくれなかった富士山が、雲が晴れて見えてきたのは感動的な瞬間でした。やはり富士山が見えると気分が一気に高まります。
エイドステーションのおかげで体力だけでなく、気持ちもバッチリ回復し、後半のライドへの活力となりました。
初心者からベテランまで楽しめる「ちょうど良い」魅力

これまでのグラベルイベントは、ロングコースやテクニカルでハードな路面がフォーカスされがちで、上級者は満足できても、初心者や中級者にとっては参加のハードルが高い傾向がありました。
しかし、「富士グラベル」は、富士山特有の火山灰地質による走りやすい林道と、日本を代表する「富士山」という圧倒的な存在感をコースの背景に持ちながらも、難易度を抑えたコース設計と手厚いサポート体制によって、初心者や中級者にとっても十分に魅力的で楽しめる"グラベル・ファンライド"イベントとして成立していると感じました。
クロスバイクやマウンテンバイク、グラベルバイクに乗り始めたばかりの人でも安心して参加できる、「ハードすぎず、ゆるすぎない。まさにちょうど良い」バランスが、「富士グラベル」の最大の魅力と言えるでしょう。
今後のシリーズ化への期待

今回の「富士グラベル」初開催に参加してみて、不満に感じる要素はほとんどありませんでした。
強いて言えば、第一回目ということもあり募集人数が限られていたため、エントリーすることが最大の難関だった点です。今後、参加人数が増え、より多くのサイクリストがこの素晴らしいイベントを体験できるようになることを願っています。
富士山という最高のロケーションで、誰もがグラベルライドの楽しさを気軽に味わえる「富士グラベル」が、今後も継続的に開催され、シリーズ化されることを心から期待しています。
- 名称: 富士グラベル supported by Panaracer
- 主催: 株式会社テラインコグニタ
- 共催: TRYCLE合同会社
- 後援: 静岡県、富士市、富士商工会議所 協力: 明治安田生命保険相互会社、富士市林政課 協賛: パナレーサー株式会社、株式会社インターテック、キャニオンバイシクルズ・ジャパン株式会社、合同会社ACTIVIKE
- 日程: 2025年5月18日(日)
- 会場: 富士山こどもの国
今回の記事(体験者)自己紹介

- サイクリストを志すグラフィックデザイナー。
- 愛車はロードバイク、グラベルバイク、マウンテンバイク、ミニベロと多岐にわたり、その日の気分や目的に合わせて乗り分けています。 「犬と自転車」が好きな人として、デザインの仕事とアウトドアの趣味を両立。愛犬と一緒にサイクリングを楽しみながら、日々新しいインスピレーションを探しています。自転車とデザイン、どちらも人生に欠かせない存在です。
- インスタグラム:https://www.instagram.com/chagenx
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